所長ご挨拶
「花の色にひそむ科学」
10月に教養学部および大学院文化科学研究科にご入学された皆様、おめでとうございます。また、在学生の皆様も新たな気持ちで勉学に励んでおられることと思います。近年は秋の訪れが遅くなっているように感じますが、秋は勉学や運動などの活動にも適した季節です。新たな気持ちで色々なことに挑戦してみましょう。
秋になると、キクやコスモス、サルビアなど、さまざまな花が街や庭を彩ります。私たちは「赤」「青」「黄色」などと気軽に花の色を楽しんでいますが、実はその色には植物の生きる知恵が詰まっています。花の色は、花びらの中にある「色素」という物質によって決まります。特によく知られているのが、赤や青を作る「アントシアニン」と、黄色やオレンジを作る「カロテノイド」という2つの色素です。アントシアニンは春のサクラやツツジ、秋のコスモスなど、季節を問わず多くの花に含まれています。
このアントシアニンには面白い性質があります。液の性質(pH)が酸性だと赤く、アルカリ性だと青くなるのです。たとえば、紫キャベツの煮汁にレモン汁を入れると赤くなり、重曹を加えると青や緑になりますが、これと同じ仕組みが花びらの中でも起きているのです。これはアントシアニン分子の形が、酸性やアルカリ性によって変化し、光の吸収の仕方が変わるためです。
さらに、青い花には金属イオンが関係していることもあります。たとえばツユクサやアジサイの青い色は、アントシアニンだけでは出せません。そこにマグネシウムやアルミニウムなどの金属イオンが加わり、特別な「超分子構造」と呼ばれる複雑な形を作ることで、安定した美しい青色が現れるのです。金属イオンが加わると、アントシアニン分子の並び方や電子の動きが変わり、目に見える色が変化するという、まさに自然の化学マジックです。
花の色には、色素・pH・金属イオンといった要素が関わり合い、美しい姿を作り出しています。そしてそれは単なる飾りではなく、植物たちが昆虫や鳥のような花粉を運ぶ送粉者を引きつけるために進化させてきた精巧な仕組みなのです。
身の回りの自然に目を向けると、科学の視点で見ることで初めて気づく不思議や美しさがたくさんあります。この秋、散歩の途中でふと目に入る花の色を、「化学の目」で眺めてみてはいかがでしょうか。学びの楽しさが、日常の風景をより豊かにしてくれるはずです。

令和7年10月1日 福岡学習センター所長
久枝 良雄


