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鳥取学習センター

鳥取学習センター・セミナー「乾燥地を活かす食料生産技術」(3)

SATREPS事業による「持続的食料生産のための乾燥地に適応した露地栽培結合型アクアポニックスの開発」では、研究推進のためにモデルサイトを設けて実証試験を行っています。モデルサイトを設定したのは、南バハ・カリフォルニアの州都であるラパス市の市街地から南東部に40kmほど離れたロス・プラネス地区です。南北の両端には山があり、コルテス海に向けて広がる扇状地の上に農地が造成されています。地下水の塩分濃度は高く、農業用水としては劣等な地区にあたります。

プロジェクトでは、高額な投資と高度な生産技術を要する露地栽培結合型アクアポニックスによる経営活動を担ってもらう協力農家として、地元からJ農場を選出しました。J氏は元中学校教員で、地区内に10haの農地を購入して退職後に息子とともに農業を営んでいます。軟弱野菜の生産を主体にした野菜作経営を行っており、香菜(こうさい)を基幹作物として二十日大根、テーブルビート、タマネギ、スベリヒュー、フダンソウ、パセリ等の生産を行っています。J農場では、実証試験に協力して露地栽培結合型アクアポニックスの生産技術を習得し、プロジェクト終了後には自立してアクアポニックス部門の経営に着手する予定です。

 実証試験では、日本円で4千万円を投じて2018年7月から露地栽培結合型アクアポニックスの施設に着手しました(写真1)。政府統計によれば、南バハ・カリフォルニア州の一般世帯における年間平均所得が135万円ですから、個人が自己資金で導入するとした場合には相当大きな投資額となります。設置した施設の構成は、養殖と水耕栽培の2部屋を覆う大型網室、養魚用の2トンタンク6基、水耕栽培用ベッド4床(貯水能力5.4トン)、土耕栽培用畑地2.5アール、太陽光発電装置一式(総出力47キロワット)等です。

 実証試験の生産対象には次のような品目を選びました。養殖では、塩分を含む水で飼育することができ、繁殖・生命力の強いティラピアを選択し、6基の水槽で常時1,800匹を飼育して年間2.7トンの出荷を目指しました。水耕栽培では、水中の塩分濃度を低下させる除塩機能を備えたフダンソウを選択し、水耕ベッドでの周年栽培をめざしました。土耕栽培では、トウガラシ(アバネロ種)を主体に、二十日大根、香菜等の耐塩性を備えた野菜を取り上げました(写真2)。

 生産対象とした魚や野菜の品目は、これまでの試験研究を通じて塩分を含んだ水を利用して食料生産を行うための条件を備えた品目として実証されているものです。ただし、夏場は酷暑となり、年間降水量が限られた半乾燥地の厳しい自然環境下にあるモデルサイトでは、これまで明らかにされている研究成果をそのまま適用することが困難な状況が相次いで生じています。

たとえば、夏場には日中気温が40度を超える日が続くため、養殖用タンクの水温が30度を上回り、水質管理がことのほか難しくなります。水耕栽培ではフダンソウの周年栽培を計画していましたが、夏場の高温対策が容易ではなく見直しを迫られています。土耕栽培については、暑さ対策のためラパス市一帯では一般に7・8月の野菜生産は行われていません。さらに、9月には太平洋やコルテス海を北上するハリケーンの襲来があります。ハリケーンのたびに網室を覆うネットの取り外し、被害を被った施設や作物の復旧が必要となります。停電に見舞われると水槽への酸素供給が停止して魚が死んでしまうため、ハリケーン時の停電対策はとりわけ神経を使う作業となります。

プロジェクトチームでは、このような厳しい自然条件と闘いながらモデルサイトでの実証試験を続けています。これまでの研究活動を通じて塩分を含む地下水を使ってティラピアやフダンソウ、トウガラシを始めとする候補品目の生産が着実に行えることを実証したことは大きな成果です。2020年5月には研究期間が終了しますが、露地栽培結合型アクアポニックスにおける安定した生産技術を確立し、それらが経営経済面から再生産可能な条件を備えることができよう、メキシコ合衆国と日本の研究機関が協力して残された試験期間に全力を注ぎます。

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